2016/08/21

透明の瞬間

自分が透明になる瞬間がある。

以前、テレビのなにかの番組で、お坊さんが
「オクラを煮ているとき、ある一瞬オクラが透明になることがある」
という話をしていた。たぶんそんな感じの話。
なんとなく、ごくなんとなくだけど、分かる。気がする。

今日、フロの水を張り替えるため、浴槽の水を抜いた。
排水溝の流れが悪くて浴室に水がたぷたぷと溜まった。
なんとなく急ぐ気にもなれず、見ていてもそれと分からないくらい少しずつ
ゆっくりとゆっくりと減ってゆく水。しばらく立ったまま見ていた。

ほとんど水が引いたので、浴室用のゴムのスリッパをつっかけ、
浴槽のタイルを滑って波がひいていくように排水溝へ吸い込まれる水を見た。
なぜだか、自分が無色透明の存在になったような気がする。

こういう気持ちになる瞬間は、日常のなかでもたまにある。
晴れた日、急な雨がアスファルトを打つときの匂い。
雨の日、濡れて鏡のようになった道路の上を流れていく色とりどりの車のライト。
深夜、夜行列車の中から見る誰もいない駅の蛍光灯。

こういう瞬間には、自分が透明になって、そのあとすっと、生まれ変わる。