2018/02/21

『地下鉄道』コルソン・ホワイトヘッド

久しぶりに、読むのを止められない小説に出会った。
19世紀アメリカの逃亡奴隷を手助けする地下組織「地下鉄道(Underground Railroad)」を、文字通り地下を疾走する鉄道として描いた長編小説。
奴隷の生活は取材を重ねた事実にもとづいて構成され、随所に挟み込まれる逃亡奴隷の手配書などは実際のものをそのまま引用しているそう。
テーマは重く、ずっしり……。だが、逃亡劇のあいだに、奴隷をめぐる登場人物の内面を丁寧に描写した章があり、逃亡劇のハラハラと人物描写の味わい深さのミルフィーユ状態で、一気読みしてしまった。

コーラはランドル農園の奴隷だ。身よりはなく、仲間たちからは孤立し、主人は残虐きわまりない。ある日、新入りの奴隷に誘われ、彼女は逃亡しようと決意する。農園を抜け出し、暗い沼地を渡り、地下を疾走する列車に乗って、自由な北部へ…。しかし、そのあとを悪名高い奴隷狩り人リッジウェイが追っていた!歴史的事実を類まれな想像力で再構成し織り上げられた長篇小説。世界を圧倒した奴隷少女の逃亡譚。ピュリッツァー賞、全米図書賞、アーサー・C・クラーク賞、カーネギー・メダル・フォー・フィクション、シカゴ・トリビューン・ハートランド賞、レガシー・フィクション賞、インディーズ・チョイス・ブック・アワード受賞!ニューヨーク・タイムズ・ベストセラーAmazon.comが選ぶ2016年のNo.1。
amazon「BOOK」データベースより引用

2016/08/21

透明の瞬間

自分が透明になる瞬間がある。

以前、テレビのなにかの番組で、お坊さんが
「オクラを煮ているとき、ある一瞬オクラが透明になることがある」
という話をしていた。たぶんそんな感じの話。
なんとなく、ごくなんとなくだけど、分かる。気がする。

今日、フロの水を張り替えるため、浴槽の水を抜いた。
排水溝の流れが悪くて浴室に水がたぷたぷと溜まった。
なんとなく急ぐ気にもなれず、見ていてもそれと分からないくらい少しずつ
ゆっくりとゆっくりと減ってゆく水。しばらく立ったまま見ていた。

ほとんど水が引いたので、浴室用のゴムのスリッパをつっかけ、
浴槽のタイルを滑って波がひいていくように排水溝へ吸い込まれる水を見た。
なぜだか、自分が無色透明の存在になったような気がする。

こういう気持ちになる瞬間は、日常のなかでもたまにある。
晴れた日、急な雨がアスファルトを打つときの匂い。
雨の日、濡れて鏡のようになった道路の上を流れていく色とりどりの車のライト。
深夜、夜行列車の中から見る誰もいない駅の蛍光灯。

こういう瞬間には、自分が透明になって、そのあとすっと、生まれ変わる。

2016/06/12

HCD-Netフォーラム2016

2016年6月10日に、HCD-Netフォーラム2016に参加してきました。
リ・パブリックの田村 大さんの基調講演「イノベーションを生み出し続ける『生態系』をデザインする」が非常に面白かったです。

シリアルイノベーターからの内容も多かったですが、最近の1day republicの活動と合わせて、非常に染みこんできたので、(あと、ブログを再開するきっかけとしても……)ざっくりとメモを残しておきます。
目指すべき価値の方向性が分からない時代であるということと、メンターに出会うにはどうすればよいのかというところでいろいろ改めての発見が多かった様に思います。

イノベーションを生み出す

まず、博報堂時代の「ショッピングカートに情報端末を搭載して買い物の補助をする」という、ご自身の過去のプロジェクトを紹介。 このころから「開発を行うプロセスが面白いね」と言われるように。

これが、イノベーションについて考えるきっかけになり、「イノベーションは教えられるのか」という疑問が生まれたそう。 それについて、東大i.schoolディレクター堀井氏の提唱するイノベーターに必要な三か条を紹介されていました。以下の3つがイノベーションには必要なのだそうです。

  1. スキル
  2. モチベーション
  3. マインドセット

これを見ると、2/3がやる気の問題のような……。まあ、でもそういうものかもしれませんね。非常に分かる気がします。

そして、書籍『シリアル・イノベーター』を紹介。 この本では、“どの会社にもシリアル・イノベーター(連続してイノベーションを生み出す人)が存在する”という主張が展開されています。 執筆陣は、アメリカ西海岸の工学系大学の教授が中心。

工学系は実学であり、理論より実用性を重んじることが多いため、イノベーションとの親和性が高いとのお話。 実際に、田村さんがこの本をさまざまな方に紹介したところ、組織論の研究者からは「組織論では扱えないテーマ」と言われたのだとか。 なぜか? 経営学の基本では、人は平等であることが前提となるので、イノベーターという一部の特殊な人材がいる、という前提では理論になりえない(?)のだとか。

 うーん、そういうものなんですね、不思議。 ちなみに、アメリカ西海岸は3MやP&Gというイノベーションを生みだし続けている企業が多い土地ということも紹介されていました。


イノベーティブなヒト

次は、イノベーションを起こす人物の特徴について。 P&Gでalways(日本での商品名は「ウィスパー」)を開発したシリアル・イノベーター、トム・オズボーンを例にあげて説明されていました。

トム・オズボーンは、製品の正確な性能評価をするために、いわゆる「ヤミ研」で研究を行っていたそうです。 それまでは、試験に使う液体は粘度の低いものでしたが、それを現実の利用シーンに近い組成に近づけて、プロトタイピングを行ったのです。

このようなイノベーターと呼ばれる人物は、開発のプロセスをフェーズで分割せず、最初から最後まで何らかの形で関わる人が多いとのこと。  田村さんは、国内メーカー勤務の方に聞くと、「こういう人けっこういるね」という反応はままあるそうです。

同時にイノベーターは与えられた課題ではなく、課題そのものの特定から行うことが多いのだそう。このような「イノベーターとはどんな人物なのか」を理解するために、2012年には「シリアル・イノベーター研究会」を立ち上げたそうです。

著名なイノベーターのさまざまなエピソードをご紹介いただきました。とくに以下の2つが印象的でした。 

  • 飲食店に入るたびに、売上予測を必ずやることを繰り返すと、次第に売上予測の精度が上がっていく
  • ある製品開発に必要な工場の生産ラインを作るために15億円必要だったが、稟議が通らないので3人で分担して5億円ずつ用途をごまかしながら稟議を通した

明日からやると宣言すると……怒られるようなものもありますが、新しいことをやるためには、うまくやる、ずるくやるという側面も大事だなーと思いました。

シリアルイノベーターの行動モデル

そうしてさまざまなイノベーターへのインタビューを通して分かったことは……「日本も海外もイノベーターの人材モデル」は全く変わらないということ(!)。その特徴は「MP5 MODEL」としてモデル化され特性は5つに整理されています。きちんとした内容はあらためて『シリアル・イノベーター』をひかないといけませんが……。
  1. PERSONALITY:創造的だといわれる、忍耐強い
  2. PERSPECTIVE:技術は手段であると考える、全体思考をする
  3. PREPARATION:継続する・あきらめない、多様な学びと習熟
  4. POLITICS:社内政治
  5. PROCESS:技術と顧客のあいだを振り子状に移動しながらアイディアを詰めていく
また同時に、このようなイノベーターの成長プロセスを整理すると、いわゆる「めんどくさい若手」のパスを辿っていることが多いのだとか。本質的な課題への使命感を抱えていることが多く、面倒がられる行動や発言を行ううちに、一人でさまざまなことをこなす必要に迫られたり、社外とのつながりを持たざるをえなくなったり、このような状況が後に有効に作用するそうです。

このうち、とくに重要になるのが、会社の中ではなく外のつながりなのだそう。このつながりはイノベーターを導くメンターとして機能します。田村さんは、この「外のつながり」を実現するため、広島で「イノベーターズ100」というイノベーター養成プログラムを実践しています。このイベントでは、さまざまなパートナーがプログラムに参加しており、企業側参加者のメンターとしてサポートを行っています。

価値共創の時代のイノベーション

現在は、製品/サービスの価値は、顧客側の文脈や利用で決まるため、目指すべきイノベーションの方向性は見えない時代になっている。かつてはマーケティングとイノベーションは分離していたが、いまやその2つは混在しており、この状況のなかでは、人間中心のアプローチが非常に重要になってくる、と田村さんが仰っていたのが印象的でした。

人間中心の観点が製品の価値を決めた例として紹介されていたのが、インシュリン注射を行うためのNovo Penです。

 

ユーザーにとってのインシュリン注射に対する精神的な負担をプロダクトデザインを通して軽減することで、新しい行動、習慣、価値観を作るというイノベーションを生み出した例として紹介されていました。

突き詰めれば、イノベーションとは「あたらしい行動、習慣、価値観」を作ること。それには、「アイディア」と「あたらしい行動、習慣、価値観」の双方を、予期したり振り返ったりしながら、いったり来たりして進めるしかないと田村さんは話を締めくくりました。HCDのプロセスをアイディアのレベルでぐるぐると回すようなイメージが近いのかもしれません。

2013/07/30

世界が変わり始めてる(と思わせてくれるHIPHOP動画3選)


Beat Making Lab | Teaching Beat Making | Ep. 1: Goma, DR Congo

PBS Digital Studio提供のドキュメンタリー。バックパックひとつに、音楽制作のための機材を詰め込んで、世界各地でBeat Makingを教えて回る。実際に、ここから機材分の金額を寄付することもできる。

発するべき声+その土地のビート+バックパックひとつぶんの機材=素晴らしい音楽。テクノロジーの進化が、埋もれていた声を拾い始めている。

“らしくない”HIPHOPプロデューサー、APPLE JUICE KIDの人の好さそうな顔もまた、好感度大!


“I Love Me” チプルソ

なんというか、ここまで痛々しいほどナマなメッセージが、“もと引きこもり”という綺麗なパッケージなしに届くのがすごいなあと思ったんです(…うまく言えない)。

昔ならもっと、綺麗にうまくまとまったカタチになってたんじゃないかと。イヤフォンで聴くと嗚咽します。注意。


“ゆれる” EVISBEATS feat.田我流

 もう、何がなんでも“東京”じゃないっしょ。俺ら実家暮らしでも、ヤベーのつくるぜ。というある種の挑戦な気がする。

そして、実はこういう郊外都市の風景と気分こそ、実はたくさんの人に響くものだったりするのかもしれない。

***

HIPHOP詳しい人がいたら、ぜひオススメ教えてほしい。いろいろ聴いてるとすごい面白い。

2013/05/27

21世紀の学習方法

21世紀、子どもたちに必要な教育についての短いドキュメンタリー。


21:21は21世紀に必要な学習法の重要性に注目し、子どもの教育における第一の教育者としての親が担う大きな役割を伝えるドキュメンタリー映画です。

と、説明にはあるけど、それよりも子どもが楽しんで学べるように心を砕いている大人がきっちりいるんだということに感動した。

正直に言って、義務教育がぼくに遺した最大のものは、大人と社会に対するどうしようもない不信感だった気がする。

ちょっと前に『桐島、部活やめるってよ』を観てからこっち、いろんな記憶が甦ってきて、そのうちどこかでこれを吐き出したいとずっと思ってた。

もちろん、真面目に前向きに取り組んでいる教師がほとんどだったろうし、「よみかきそろばん」の基礎を教えてくれたことにはとても感謝しているんだけど。

授業の開始から終わりまで、一言も発せず、ただ板書していくだけの教師。
校則で定められている範囲以上に自転車で遠出した生徒を体育館で整列させて、平手打ちをお見舞いする教師(小学生のころ。1年生は『庭』だったと思う。)。
部活の指導中、傍から見ても明らかに“お触わり”しすぎな教師。

いやなことの方が記憶には強く残るんだろうと思う。 ただ、いまだにとても歪んだ世界だったと思ってしまう。

今の学校は、教師は、少しづつ変わり始めてるんだろうか。

動画に関する説明や、取り組みについてはこちらに。
21Foundation

2013/05/15

『コズモポリス』COSMOPOLIS|★★★★☆

デヴィッド・クローネンバーグ監督、ロバート・パティンソン主演の『コズモポリス』。

ゴールデン・ウィーク中に観て、暫定今年度ナンバー1になるくらい面白かった。忙しさにかまけて、ブログには書いていないけど、『ホビット』、『ルーパー』、『ゼロ・ダーク・サーティ』、『キャビン』よりも好き(もっとも、『ジャッキー・コーガン』が満席で急遽こちらを観たので、若干の拾い物バイアスはあるかも)。

スタイリッシュな映像、原作のセリフを活かした含蓄のある会話、いま現在の社会とのリンク、主人公が生きる力を取り戻しながらも破滅していくようす……。いろんな要素がキレイに自分の好みに合ったみたい。

東京では、まだ公開してるみたいなので、気になった方は是非。

COSMOPOLIS 公式サイト
公開スケジュールはこちらのページに。



以下、やや軽いネタバレ含む感想。

オープニングとエンディングを、ジャクソン・ポロックとマーク・ロスコ、アメリカの抽象表現主義作家の作品で締めるところ、痺れた!

劇中でも、主人公がロスコの作品に執着を見せるところがあって、ロスコ描くところの「扉」のようなもの、「出口」を追い求めているように思えてなんだか忘れられない。

原作も気になるんだよなー。単行本の方が装丁好みなんだけど…。