2009/06/03

J.D.Salingerが帰ってきた(違う道から)

J.D.サリンジャーが長い隠遁生活から戻ってきた。

ただし、新作の発表ではなく、続編出版を止めるための訴訟でだ。
サリンジャー氏、「ライ麦畑でつかまえて」続編をめぐり提訴

米小説家J・D・サリンジャー氏が1日、代表作「ライ麦畑でつかまえて」の続編出版を予定している著者と出版社を相手取り、著作権侵害で提訴した。

続編は著者が「J・D・カリフォルニア」、タイトルが「60 Years Later: Coming Through the Rye(原題)」となっている。

サリンジャー氏、「ライ麦畑でつかまえて」続編をめぐり提訴 | エンタテインメント | Reuters


原著者以外が、ある作品の設定を使って続編を書く、ということ事態は悪いことではない。
夏目漱石の「坊っちゃん」の30年後を登場人物の一人、「うらなり」の視点から描く、小林信彦の「うらなり」はかなり面白かった。「坊っちゃん」の明るくて破天荒な雰囲気と対比になっていて、一つの話を裏と表から見る、そんな楽しさがあるし、原作への愛もあって別の作者が書いていても、一つの作品世界がより厚く、広がりのあるものになっていると思う。

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文藝春秋|本の話より|自著を語る

考えてみると、「坊っちゃん」も「ライ麦畑でつかまえて」も、最初読んだときには全く面白くなかった。数年たってから気まぐれにもう一度読んで、その面白さにびっくりした記憶がある。

この裁判の決着がどうなるかは分からないけど、こうやって話題にもなり出版社は是非とも出版したいところだと思う。60年後(!)のホールデンも見てみたい、とは思う。

けど、「ライ麦畑でつかまえて」は、周囲の大人や友人たちの、社会に溶け込むための欺瞞に対する反発が魅力的なんだと思う。10代特有の、こういう反発や無垢さは、失われていくものだからこそ、読者がそれを失いつつあることを分かっているからこそ、この作品は面白いんだと思う。

もし続編のホールデンが、無垢であることを貫き通した隠遁者として描かれるなら、それは作者サリンジャーのゴシップニュースじみたものになってしまうのでは、とちょっと心配な気がする。

「J・D・カリフォルニア」の書く「60 Years Later: Coming Through the Rye」。作者名とタイトルからは全く期待が持てませんが、どうなることか興味深いです。

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