2009/04/29

幸運な悲劇のノンフィクション

41万語以上の収録語数を誇る世界最大・最高の辞書『オックスフォード英語大辞典』(OED)。この壮大な編纂偉業の中心にいたのは、貧困の中、独学で言語学会の第一人者となったマレー博士。そして彼には、日々手紙で用例を送ってくる謎の協力者がいた。ある日彼を訪ねたマレーはそのあまりにも意外な正体を知る――言葉の本流に挑み続けた二人の天才の数奇な人生とは? 全米で大反響を呼んだ、ノンフィクションの真髄。

マイナーはどうしても自分が役に立っていると思いたかったのだ。自分が参加していると感じたかった。賞賛の言葉を雨のように浴びたいと望みながら、それは無理なことだと自覚してもいた。彼は尊敬されたいと思い、自分は特別であり、他の独房にいる者とは違うということを、ブロードムアの人々に知ってもらいたかったのだ。

「博士と狂人 世界最高の辞書OEDの誕生秘話」
サイモン・ウィンチェスター 鈴木主税訳、ハヤカワ文庫NF


残念ながら、オックスフォード英語大辞典(OED)にお世話になるほど英語と接していないですが、ノンフィクションとしてはかなり面白かった。学問とそれを支える知的好奇心が境遇は違っていても満たされない二人の男の存在を支えていた、その事実がなんだか純粋で気持ちが洗われる。
あとがきの著者がこの本を書くきっかけになった、OEDのあるページの活版のモト(?活字が組まれたプレートのことです…。なんて言うんでしょ)に出会ったお話は、ちょっといい話。

平野甲賀さんの装丁も素敵です。特殊な印刷って、いい装丁の条件じゃないんだな、と改めて思いました。

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